揺れが収まって、最初にすることは何ですか
書棚の上のファイルが落ち、しばらくして揺れが収まります。オフィスにいる人の無事は、顔を見れば分かります。問題は、そこにいない人です。
「全員の無事を確認してください」と言われたとき、確認する相手はこういう方々になります。
- 外回りの営業担当や、現場に出ている方 — 社内にいないので、目で見て確認できません
- 在宅勤務の方、直行直帰の方 — その日どこにいたかを、会社側が把握していないことがあります
- その日が休みだった方、パート・アルバイトの方 — 名簿から漏れやすい層です
- 出張で被災地の外にいる方 — こちらの状況が伝わらないと、帰社の判断ができません
名簿を開いて、上から電話をかけ始めます。すると、たいてい 3 つのことが同時に起きます。
- 回線が混みます。つながらない相手に、もう一度かけ直すことになります
- かけている担当者自身も被災しています。自宅の状況を確認したい人に、100 件の電話をお願いすることになります
- どこまでかけ終わったかが分からなくなります。紙にチェックを付けていても、途中で中断が入ります
この記事は、製品の比較記事ではありません。道具を選ぶ前に決めておくことがいくつかあって、そこが決まっていないと、どの道具を買っても同じところで止まる——という話です。私たちが何を作っているかは、いちばん最後に書きます。
義務ではありません。それでも用意する理由
先に、はっきりさせておきます。安否確認システムの導入は、法律で直接義務付けられてはいません。「義務化されました」という説明を受けたことがあれば、そこは落ち着いて確認してください。
ただし、企業には労働契約法第 5 条にもとづく安全配慮義務があります。中小企業庁の「中小企業 BCP 策定運用指針」でも、従業員の安否確認は初動対応の基本とされています。義務かどうかより、実際に確認できる状態にあるかが問われる領域だと考えています。
そしてもう一つ、中小企業ならではの事情があります。総務が 1 人か 2 人という会社では、その方自身も同じ災害の中にいます。「担当者が全員に電話をかける」という設計は、いちばん必要な日に、いちばん動かない設計です。
不安を煽るつもりはありません。ただ、備えは平時にしか作れない、という当たり前のことだけ書いておきます。
道具を買う前に決める、4 つのこと
安否確認の体制は、機能表からではなく、この 4 つから決めたほうが早く固まります。どれも、道具を買わなくても今日決められることです。
1. 名簿 — 誰を対象にして、どこに置くか
- 対象に、パート・アルバイト・派遣の方、常駐している協力会社の方を含めるかを決める — あとから足すより、最初に線を引いておくほうが揉めません
- 名簿の置き場所を決める — 社内サーバーの中だけにあると、停電したその日に開けません。手元に持ち出せる形(紙 1 部でも)を用意しておきます
- 更新の担当と頻度を決める — 入社・退職のたびに直す運用にしないと、いざという日に「辞めた人に送り、入った人に送っていない」状態になります
2. 連絡手段 — 送る道と、返ってくる道
見落とされやすいのは、送る道と返す道が別だということです。呼びかけは一斉に送れても、返事の集め方を決めていないと、結局そこから電話が始まります。「どうやって呼びかけるか」と「どうやって返してもらうか」を、必ずセットで決めてください。手段の選択肢は、次の節で並べます。
3. 確認する項目 — 何を聞くか
- 最初の 1 通は「無事 / 要支援」の 2 択で十分です。歩きながら、片手で押せる粒度にしてください
- 住所・家族の状況・出社の可否は、次の便で聞きます。1 通に詰め込むほど、返信率は落ちます
- 自由記述の欄を用意するなら、必須にはしないでください。書けない状況の方が、回答そのものをやめてしまいます
4. 呼びかける役割 — 誰が、いつ送るか
- 発信できる人を、最低 2 人決めておく — 1 人だけだと、その方が出張中・被災中のときに誰も送れません
- 「どういうときに送るか」の目安を決めておく — 震度いくつ以上か、警報が出たときか。手動で発信する仕組みなら、この目安が発動条件そのものになります
- 文面を、平時のうちに下書きして保存しておく — 揺れた直後に文章を考える時間は、思っているよりありません
この 4 つを決めずに道具から入ると、機能の多い管理画面が、空の名簿を抱えたまま残ります。逆に 4 つが決まっていれば、必要な機能はおのずと絞られます。
呼びかけの手段は、5 つあります
決めた 4 つを実際に動かす手段は、大きく 5 つに分かれます。
- A. 電話連絡網 — 道具はいりません。人数が少なければ、いちばん確実で速い方法です。ただし順番に回す構造のため、どこかで止まるとその先に届きません。
- B. メールの一斉送信 — 追加の費用がほとんどかかりません。ただし迷惑メールフォルダに入って気づかれない問題が構造的に残り、集計は手作業になります。
- C. グループチャット・グループ LINE — すぐ始められます。ただし返事はスタンプや文章で戻るため、誰が答えて誰が答えていないかは人が数えることになります。
- D. 専用の安否確認システム — 震度に連動した自動発信、未回答者への自動再送、訓練配信といった機能がそろっています。壁は導入で、全員にアプリを入れてもらい、ID を配る必要があります。
- E. LINE 活用型のサービス — 受け取り口を、多くの方がすでに使っている LINE にして、名簿の管理・配信・集計は専用の管理画面で行う型です。受け取る側の操作は友だち追加が一度だけ。当然、LINE をお使いでない方には届きません。
| A 電話連絡網 | B メール | C グループチャット | D 専用システム | E LINE 活用型 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 名簿の置き場所 | 手元の紙・表 | 手元の表 | グループの中 | 管理画面 | 管理画面 |
| 呼びかける人 | 各担当が順番に | 担当者 1 人 | 誰でも | 担当者 | 担当者 |
| 返事の集まり方 | 折り返しの電話 | 返信メール | スタンプ・文章 | ボタン | ボタン |
| 未回答の把握 | 手で消し込む | 手で消し込む | 既読の数だけ | 自動で一覧 | 自動で一覧 |
| 受け取る側の準備 | 不要 | アドレス提出 | グループ参加 | アプリ導入 + ID | 友だち追加のみ |
| 平時の出番 | ほぼなし | あり | あり | 安否専用が中心 | あり |
※ 各手段の一般的な特徴をまとめたもので、個別の製品の機能を断定するものではありません。
電話連絡網を古い方法として片付けるつもりはありません。10 名ほどの会社なら、声が聞けるぶん電話がいちばん確実です。人数が増えて「誰にかけ終わったか分からなくなる」規模に入ったところが、道具を考える境目だと思います。
災害は、当日で終わりません
ここが、安否確認をシステムとして考えるときに抜けやすい部分です。被害は当日で終わらず、むしろ翌日からのほうが長く続きます。
- 当日 — 安否確認。「無事」「要支援」が戻ってくれば、その日にすべきことが決まります
- 翌日 — 出社できるかの確認。交通が止まっていれば、来られる人と来られない人に分かれます
- 数日間 — 復旧の日程調整と、自宅待機中の方への状況確認。ここがいちばん長く続きます
- その先 — 段階に応じた情報共有と指示。落ち着けば、そのまま平時の連絡網に戻ります
それから、対象は地震だけではありません。台風、大雨、河川の氾濫、大雪。水や風の災害は、毎年どこかで起きています。震度計が反応しない災害のときに、同じ手順で呼びかけられるかどうかは、確認しておいて損のない点です。
当日の 1 通だけを想定して選ぶと、翌日からのやりとりが電話とメールに散らばります。「確認 → 判断 → 指示」を何度も繰り返すのが災害後の実務なので、その往復に耐える道具かどうかで見てください。
費用の考え方 — 「災害のときだけの投資」にしない
価格の相場も書いておきます。一般的な安否確認システムは、初期費用が 0〜約 16 万円、100 名規模の月額がおよそ 4,400〜22,000 円(中心帯 9,600〜15,000 円)でした※2。社内連絡ツールのほうは 1 人あたりの ID 課金が主流で、調査した 10 社中 8 社が 1 人 330〜1,180 円/月です※2。
稟議で止まる理由は、たいてい金額の大小ではありません。「使うかどうか分からないものに、毎月払う」という説明のしづらさです。ここを越える考え方は 1 つだけだと思っています。平時の業務連絡と兼用にすることです。ふだん使っている道具が有事にも動くなら、それは災害のときだけの投資ではなくなります。
これは経理上の理屈だけの話ではありません。全国規模の一斉訓練(1,921 社・702,114 名が参加)では、平均回答率は 81.4% でした※1。訓練に参加するほど意識の高い企業でも、およそ 2 割の返事が集まらないということです。年に一度しか触らない道具は、その一度もうまく動きません。ふだん押しているボタンだけが、当日も押されます。
もう一点。見積もりは必ず総額で取ってください。本体の月額とは別に、別契約の費用が乗る製品があります。最初に総額を聞いておけば、稟議のやり直しが減ります。
最初の一歩は、今日できます
道具を決める前でも、進められることがあります。
- 名簿を、持ち出せる形で 1 部つくる — データの置き場所が停電で開かない前提の、最後の一枚です
- 「無事 / 要支援」の 2 択の文面を、今日書いて保存する — 送る日には、文面を考える余裕がありません
- 発信できる人を 2 人決めて、本人に伝える — 決めただけで伝えていない役割は、当日に動きません
- 平時に一度、同じ手段で送ってみる — 訓練の機能がなくても、ふだんの業務連絡がそのまま練習になります
この 4 つを済ませてから製品を見に行くと、営業の方の説明が急に短くなります。聞くべきことが、こちらで決まっているからです。
答え合わせ — 私たちが作っているもの
TEDIT では、上の E にあたる連絡ツール「カイランマル」を作っています。ふだんの業務連絡と、災害の日の安否確認を 1 つで行う道具です。宣伝になってしまうので、事実だけを書きます。
- 従業員の方の操作は、LINE の友だち追加が一度だけ。アプリのインストールも、ID の発行もありません
- 名簿はクラウドで会社が一元管理し、LINE の友だち追加と連動します。名簿から外せば配信は止まります
- 安否も出欠もボタンで戻り、自動で一覧になります。未回答の方はお名前つきで残り、その場から個別にメッセージを送れます
- 会社側に見えるのは表示名だけです。チャット機能はオフに設定して導入します
- 自社運用プランは初期費用 0 円、〜100 名で月 5,000 円、〜300 名で月 10,000 円(税別)。名簿整備・設定・配信代行まで含むおまかせプラン(初期 50,000 円 + 月 10,000 円・税別)もあります
- 30 日の無料トライアルつきで、契約の縛りはありません。LINE 公式アカウントの費用まで含めた総額でも、100 名・月 4〜50 回の配信で月 10,000 円の想定です※4
なお、個人の LINE だけで通知から回答・集計まで完結する安否確認の専業サービスは、当社が調べた 15 社の中にはありませんでした※3。だから優れている、という話ではありません。専用アプリ型が積み上げてきた機能を、こちらは持っていないからです。
できないことも先に書きます
- 震度に連動した自動発信、未回答者への一斉自動再送、訓練配信は現時点では対応していません(発信も、未回答の方への個別送信も手動での操作になります)。これらは専用アプリ型の標準機能です
- 家族の安否確認、GPS による位置情報の機能はありません
- LINE 公式アカウントはお客様のご契約となり、配信数に応じた費用が別途かかります。導入前に総額でご試算をお出しします
- 添付は 1 件 10MB までです。LINE をお使いでない方には届きません
震度連動の自動発信や訓練配信が要件の上位にあるなら、専用アプリ型の製品が良い選択です。そのうえで「まず名簿と 2 択の返事から始めたい」「平時の連絡と分けたくない」が要件に来るようでしたら、一度ご相談ください。
冒頭の問いに戻ります。その日、従業員の何人と連絡が取れるか。答えは道具ではなく、名簿と、決めておいた 4 つのことで決まります。道具は、そのあとで足すものです。
よくある質問
従業員が 20 名ほどの会社でも、仕組みは必要ですか?
20 名なら、電話で回りきれる規模です。道具より先に決めておきたいのは、名簿・2 択の文面・発信できる人が 2 人いること、この 3 つだと考えています。逆に、拠点が分かれている、直行直帰や在宅の方が多い、パートの方まで含めると人数が読めない——このあたりが当てはまるようでしたら、名簿と集計を持つ道具を検討する段階かもしれません。
震度に連動して自動で送る仕組みは、必須の要件ですか?
会社の体制によります。夜間や休日に担当者が不在でも発動させる必要があるなら、譲れない要件です。専用アプリ型のサービスでは標準的な機能なので、そちらをご検討ください。一方、担当者が状況を見てから送る運用にしている会社では、震度計が反応しない台風・大雨・大雪のときにも同じ操作で送れるほうが実務に合う、というご意見もいただきます。どちらが正しいという話ではなく、誰が発信するかを先に決めると、選ぶべき型が決まります。
安否確認の訓練は、どうすればよいですか?
訓練配信の機能を持つ製品なら、その機能で実施し記録まで残せます。機能を持たない道具を使う場合は、ふだんの業務連絡がそのまま練習を兼ねます。年に一度の訓練でしか触らない道具より、毎月ボタンを押している道具のほうが、当日に迷わないからです。なお、当社のカイランマルには訓練配信の機能はありません(正直な違いです)。
従業員から「個人の連絡先を会社に出したくない」と言われそうです。
手段によって、提出をお願いするものが変わります。メールなら個人のアドレス、専用アプリ型なら個人の端末へのインストールとアカウント登録です。LINE 活用型の場合は、会社の公式アカウントを友だち追加していただく形になり、会社側に見えるのは表示名だけで、個人のアカウントや電話番号は渡りません。いずれの手段でも、何が会社に見えて何が見えないのかを、導入前に文章で説明できる状態にしておくのが近道です。
出典
- 安否確認サービス大手 1 社の「全国一斉安否確認訓練 2024」レポート(1,921 社・702,114 名参加)(2026-08-03 確認)
- 安否確認システム 15 社・社内連絡ツール 10 社の公式ページ掲載価格を当社で確認した集計。価格を公開していない製品もあり、各製品の実際の費用を断定するものではありません(2026-08-03 確認)
- 安否確認サービス 15 社の公式ページ調査(当社調べ)。個人の LINE だけで通知から回答・集計まで完結する安否確認の専業サービスは、調査した 15 社の中にはありませんでした(2026-08-03 確認)
- LINE 公式アカウントの各プラン(コミュニケーション 0 円・月 200 通 / ライト 5,000 円(税別)・月 5,000 通 / スタンダード 15,000 円(税別)・月 30,000 通)。出典: LINEヤフー for Business 料金プランページ。2026 年 10 月に追加メッセージ料金の改定が予告されています(2026-08-03 確認)